TPPで喜ぶのは、誰だろう?
TPPは、日本がこれまで締結してきた、自由貿易協定とは異なり、原則として、関税撤廃における、一切の例外を認めない、極めて異質な協定です。また、例外無き関税撤廃により、農業が大きな打撃を受けるだけでなく、食の安全・投資・サービス・医療といった、様々な分野における、制度・ルールの統一をはかることを、目的としており、国民生活全般に、大きな影響を及ぼすと、考えられています。
様々な分野において、米国にとって、都合の良いルールを、他国に押し付ける性格の、協定になりつつあります。
- 市場アクセス分野
- 砂糖について、米国は、米豪FTAでは、オーストラリアからの輸出を、関税撤廃の対象から除外しています。TPPにおいて、オーストラリアから、砂糖の市場開放のための、再交渉を要求されているものの、「既存のFTAの再交渉は行わない」とする姿勢をとっています。
乳製品について、米国は、競争力の強い、ニュージーランドからの市場開放に対しては、消極姿勢を示しています。一方で、米国にとって、2番目に大きな輸出先である、カナダに対しては、さらなる市場開放を求めて、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉を求める構えをとっています。
繊維・衣料品について、米国は、ヤーン・フォワード原産地規制※を主張しています。一方でベトナムは、米国市場の輸出拡大を、優先事項としており、この協議が整わない限り、米国が要求している農産品、工業製品についての、関税撤廃には応じないとしています。
※使用した原材料を、原糸から全て、その国で製造した場合のみ、原産品と認めるルールのこと。例えば、ベトナムは主に、中国から原材料の生糸を輸入しているが、それを使用した場合は、ベトナムが原産地とはならず、TPPによる関税撤廃の対象にならない。
- 国有企業
- 米国は、国有企業と民間企業との、公平な競争条件を確保する観点から、国有企業に有利な規制や、支援などを禁止するなど、厳しいルールの義務付けを提案しています。シンガポール、ベトナム、マレーシアなど、国有企業が重要な役割を果たしている、交渉参加国は抵抗しています。
- 知的財産分野
- 米国は、特許・著作権の使用料だけで、年間9.6兆円(平成23年)の外貨を稼いでおり、農産物や自動車をしのぐ、輸出産業となっています。そのため、知的財産の保護強化につながる、複数の提案をしていますが、ほとんどの交渉参加国が、反対しています。例えば、安価なジェネリック医薬品の、製造に必要な臨床試験データは、米国国内法で5年の独占期間が認められていますが、米国の製薬業界は、最長12年に延長するよう、要求しています。より長期の独占権が認められた場合、医薬品の高騰につながる懸念があることから、慎重な立場をとる国があります。
- 食品安全
- 米国業界団体などが、日本における残留農薬基準の設定や、食品添加物の認証手続き、遺伝子組み変え食品に関する表示義務などを「非関税措置」とみなし、その改善を求める意見を、米国政府に対して、相次いで出しており、日本の食の安全に関わる、規制・制度の見直しを、求められることも予想されます。
- ISD条項
- ISD条項とは、投資家・企業が、不利益を被った場合、外国政府を国際仲裁機関に、提訴できる制度であり、TPPやNAFTAにおいても、盛り込まれています。NAFTAでは、米国の投資家が、カナダ、メキシコを訴え、勝訴した事例は、複数ありますが、米国政府が、敗訴したことはありません※。TPPの枠組みでも、米国などの投資家から、日本の規制・制度の緩和・撤廃を求めて、訴えられることが想定されます。
※平成24年2月時点、UNCTADの投資仲裁データベースに基づく。
TPPは、一部の業界団体以外は、情報を知る機会、意見を述べる機会すら、与えられません。一切、秘密裏に交渉が行われるような状況では、国民の合意形成はおろか、十分な議論が行われているとは言えません。さらに、こうした状況の中で、日本政府は、どのように交渉に臨むのかという方針を、未だに明確にしていません。
全国農業協同組合中央会
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