落語? いえいえ落話です
Rakugo? No No Rakuwa.

六代目圓楽炎上

吉川友梨ちゃん捜索にご協力を

三遊亭楽太郎師匠『六代目 三遊亭圓楽』襲名勝手に記念 特別落話

お弟子さんが、何やら疑惑の臭いを嗅ぎ付けてきた様です。
「兄さぁーん、ちょっといいですかぁ?」
「おぉ、何だい? まぁ、こっちへ来なさい。」
「あのぉ、あくまでも巷の噂なんですけどね、あくまでも巷の…。」
「何だい、しつこいねぇ。そう言う時は、大抵おまえが言い出した事なんだぁ。」
「うぅん、そんなんじゃねぇです。あくまでも巷の…。」
「もういいよ、で、何だい、その巷の噂ってのは?」
「えぇ、実は…、楽太郎師匠の六代目圓楽名継の事なんですけどねぇ…。」
「おぉ、その事か、めでてぇ事じゃねぇか。それがどうした?」
「それがぁ…、いやっ、そのっ、あっしじゃねぇですよっ! あくまでも巷の…。」
「わかったから、言ってごらん。時と場合にしか怒らねぇから。」
「それじゃぁ、いやですよぉ。お邪魔しました。」
と、逃げ帰ろうと走り出します。
「待て待て、冗談だよ。言ってごらん。」
恐る恐る戻って来て、もじもじしながら、
「そのぉ、巷の…。『楽太郎師匠が圓楽の名を金で買ったんじゃねぇか』って。ひぇー、怒らないでぇ!」
思わず、両手で頭を隠します。
すると、静かに、
「おまえねぇ、世の中には言っていい事と、悪い事があるんだよ。楽太郎師匠本人が言うなら洒落で…、済むとは…、一応思うけどな。弟子のおまえが言っちゃぁいけねぇ。」
「いやぁ、あっしじゃねぇですってぇ! 巷のぉ!」
「まぁいい、噂って奴にしておいてやるけどなぁ、おまえ、自分の師匠を誤解してねぇかい? あのお方はなぁ、表向きではブラック団団長なんて言ってるけど、ん? 表向きは落語家か…。えぇーっと、表向きの裏の顔がブラック団団長?」
「じゃぁ、本当の顔がブラック団団長って事ですかい?」
「んー、そういう事に…ならないよっ! 何言ってるんだい、まったくもうっ。だから、表向きは腹黒落語家で、表向きの裏の顔がブラック団団長で、でだなぁ…、本当の顔が…、そうよ、“天才にして芸の虫、実力派落語界の星”ってところよぉ。」
「今のは笑う所ですかい?」
「どうして笑うんだい? しかも自分の師匠を捕まえて。第一、何で“落語界の星”が、わざわざ名前を金で買わなくちゃぁならないんだい。バカな事言ってないで、楽太郎師匠を見習って、稽古でもしたらどうだ。」
「いやぁ、それが“火の無い所にゃぁ煙は立たねぇ”『根拠がある』って言うんです、噂って奴が…。」
「聞き捨てならないねぇ。何だい、その根拠ってのは?」
「ところで、襲名までに随分時間があるのが気になりませんかい?」
「まぁなぁ、でも、あぁ見えても奥床しいお方だからなぁ、『圓楽どうだい?』『はい、喜んで』って訳には行かねぇんだろう。」
「そうじゃねぇんです。奴によれば…。」
「奴って、チマタ ウワサさんかい?」
「そうです。あっしじゃぁありませんよっ! で、その奴によれば、『襲名までにヤケに時間がかかるのは、圓楽の名を月賦で買ったからじゃねぇか』って、だから『その支払いが終わるまで、襲名できねぇ』っつぅー、理屈らしいんですよ。」
「そうかぁ。」
兄さん、思わず膝をポンッ。
「あぁっ! 今、納得しましたよねぇ? っつぅー訳なんで、兄さんから聞いてみてくれませんかぁ、詳しい経緯。」
「俺がぁ? やだよぉ。」
首を横にぶるんぶるん。しかし、弟分はいたずらっぽい目つきで、
「いいんですかぁ? 兄さん。『っつうー、理屈らしいんですよ』『そうかぁ』の部分、録ってあるんですよ、ほらっ、稽古の友“ICレコーダー”。」
「いやな奴だねぇ。わかったよ、聞けばいいんだろぉ、おいっ、おまえ、どこ行くんだい。おまえも一緒に行くんだよ。あぁ、気が乗らねぇなぁ。」

§

二人はとぼとぼと師匠の部屋に。
コンコンッ。
「楽太郎師匠、ちょいとよろしいですか?」
「…。」
コンコンッ。
「楽太郎師匠っ!」
「…。」
二人は顔を見合わせます。
コンコンッ。
「圓楽師匠っ?」
「何だい? お入り。」
「兄さん、もう“楽太郎”の名前じゃぁ、返答しませんよぉ。」
「うるさい! 俺だってビックリしてるんだから、黙ってろ。」
「何をコソコソしてるんだい? どうでもいいけど、まだ襲名前なんだから、気安く“圓楽”の名前を出してもらっちゃぁ困るね。まぁ、弟子としては、師匠が“神君 圓楽公”の名を引き継ぐってぇのは嬉しいもんかもしれないがねぇ、はっはっはっ。」
「いやぁ、あっしらは、そのぉ、ちゃんと楽…もごもご…。」
「あぁーっと、何でもありやせん。すみやせん、以後気を付けます。」
「ところで、何だい? 雁首揃えて、稽古でもつけて欲しいのかい?」
「えぇーっと、そのぉ、そうじゃぁねぇんですけど…、兄さん、どうぞっ!」
「えっ? あっ? 俺っ? おまえっ、腹黒い奴だなぁ…。」
「“腹黒”がどうしたって? いいんだよ、おまえ達。私も襲名を控えて心機一転、弟子は刷新でサッパリなんてねぇ。」
「そんな、見捨てねぇで下さいよぉ。そのぉ、聞きてぇ事が…。」
「うん、言ってごらん。」
「えぇーっと、んー、チマタって奴によれば…。」
「内股? うちの一門にそんな奴居たかな? まぁいい、その内股君が?」
「いえ…、それじゃぁオカマさんで…。でっ、そのチマタって奴が言うには…、ですよ。いいですかいっ? そのチマタって奴が言うには…、ですねぇ。言いますよぉ、ほんとに言いますよぉ、えぇーいっ!」
手刀を振りかざして、師匠をバッサリ。
師匠、両腕をバタバタさせて、後ろに仰け反ってしまいます。
「やられたぁ! って、何の稽古だい? これは?」
「すみやせん。んもぉ、ですからぁ『楽太郎師匠が圓楽の名を金で買ったんじゃねぇか』って、なぁ(振り返る)、あれっ? あの野郎、居ねぇよ。」
「おぉ、今さっき『腹が痛てぇ』って、行っちまったよ。」
「すっとこどっこいめぇ、こんな所ばっかり師匠に似て来やがって…。」
「私に似て何だって?」
「いえいえ、何でもありやせん…。」
「まぁいい。私みたいに、天に二物も三物も与えられた様な人物は、やっかみの一つや二つ振り被って来るもんだ。言わせておきなさい。」
「でも、それだけじゃぁねぇんです。そのチマタの奴が言うには、『襲名までにヤケに時間がかかるのは、圓楽の名を月賦で買ったからじゃねぇか』と…。」
「で、『その支払いが終わるまで、襲名できねぇ、っつぅー理屈だ』と言いてぇ訳だ。」
「そ、そ、そ、その通りで!」
師匠は手に持っている扇子をピシャリと閉じてから、静かに前に置き、落ち着いた物腰で、
「バカ言っちゃいけないよ。この楽太郎、痩せても枯れても、これから圓楽を名乗ろうってところまで登り詰めた男だ。そんな裏取引みたいな事になっちまう挙げ句に、月賦でなんか買う訳無いだろう。ちゃんと契約してリースだよ、リース! 落語家なんだから、経費で落とせねぇでどうする…。」

※特段、別に、何ということの無い落話の意
※この落話は、(真相は知りませんが)全てフィクションです。
●2009年10月29日 惜しまれつつも、若竹の王子さまは、お迎えが来たものの月へは帰らず、星となられました。享年76歳。御冥福をお祈り致します。

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