R.Feynkidの
ぶやき

スバルは怒ってもいいよねぇ、エリカさん

 「別に…。」の名言(?)から始まった“エリカ様騒動”の、最も卑怯な部類に属する結果論である。「今になって…。」とのタメ息も聞こえて来そうだが、いいじゃん、別に…。
 もう、事の発端も、どんな状況だったかも、まるで覚えていないが、世の中への影響が大きかったのは確かであった。何が面白くなかったのか、見事なお冠&仏頂状態な様子。ただ、「まぁ、人間だもん、不機嫌な時もあるもんさ。」という声は、ほとんど聞こえて来なかった。テレビのワイドショーで、誰だったか、そんなコメントと共に、「あれ程、カツラや衣装にも凝って出てくれる人はいない。」と、擁護するコメンテーターもいたが、まず、そんなのが、取り上げられる雰囲気ではなかった。やめればいいのに、何時しか“芸能界の御意見番なんて冠がついちゃったお方様”なんてのは、文句の言い放題である。
 でもさぁ、貴殿だって、品行方正か? どんな人でも、万年品行方正は有り得ない。私だって、学生時代はもとより、社会人になってからだって、職場を険悪な雰囲気に幾度もしてきた(笑)。それでも、それくらいじゃぁ、社会的に抹殺される事は無かった。
 思うに今は、目下の面倒を見るという行為が、希薄になっているのではないだろうか? 本来ならば(?)、あの程度の事なら、目上が「うんうん、わかった、わかった、まぁ、そうムクれるなよ。」と頭を撫でながら、実はギュッと押さえ込んで、事無き事にするもんじゃぁなかろうか。マイクを向けられ、得意になってワーワーと喚き散らすのは、目上とは思えぬ稚拙な行為だ。

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 さて、そんなこんなで、ワガママ姫のレッテルを貼られ、印象を悪くしてしまった本人の他に、飛ばっ塵を喰ってしまったのが、スバルこと富士重工株式会社である。
 ちょうど、その直前に、アーティスト(!)“ERIKA”名義の曲、“FREE”をCMに載せて登場したのが、スバルのステラだった。このステラは、スズキとダイハツの独壇場だった背の高い、所謂トールタイプと呼ばれる軽自動車市場に、殴り込みを掛ける(粗暴な表現でげんね)、一大決心車だったのだ。社運を掛けたと言ってもいいだろう。

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 そして、そのイメージソングに選ばれた“FREE”は、アーティストという設定の冗談っぽさはともかく、企画物としては、良く出来ていた。マイケルシェンカー風の楽曲をアイドルが歌うという、相川七瀬さん以来(?)の反則技ではあるが、日本人の心を捉えて離さない。忘れた頃に、忘れずに仕掛ける(笑)というのは、流石ショービジネスは抜け目が無い。
 歌唱力も賛否両論だったのが印象に残っている。上手いと言う人と、下手だと言う人が、それぞれいるのは、その歌唱法によるものだろう。私が一番近いと思うのが、我らが帝王オジーオズボーンだ。ノンビブラートの歌いっ放しで、しかも、ちょっとフラット気味に聞こえる不安定さは、もはやキャラクターになってしまっていて、ヘタウマの領域である。テクニック云々は、無いと言ってもいいかもしれないが、意外とノンビブラートで、プロのクオリティーを出せるというのは、難しいのではないだろうか?
 彼女もそんな歌唱法だったために、評価が分かれたのかもしれない。だが、レコーディングは結果オーライなので、出来上がったものが良ければ、それでいい。‘マイケル(かわいいアイドル)オズボーン’という複合アーティストの完成で、売れない訳がない。

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 そんなんだから、「ERIKAがいるだけで、ステラは飛べる」はずだった(歌詞を思い出してね)。しかし、すぐにあの騒動である。好感度のガタ落ちしたタレントを、絶対に出して来ないのがCMだ。スバルも当然の様に、切ったと思われる。(注:推測である。予定通りのCM終了なら、ちょっと短すぎる。) ぷっつりと放映されなくなった。
 たぶん、他にも、ちょい違いのバージョンとか、作っていただろうし、その後、随分経ってから、タレントを変えてCMが放映された事を考えると、次バージョンをやらない訳にはいかないだろうから、かなり泡喰ったと思われ、痛手を被ったはずである。それよりも、新車という旬を逃してしまったのが、致命的だった。
 街中でステラ見ます? あんまり売れなかったよねぇ。儲かっている企業なら、「残念、あれは失敗でした。次がんばります。」で、何とかなるのかもしれないが、スバルはいつでも背水の陣である。そんな流暢な事は言っていられない。お陰様(?)で、軽自動車事業撤退である! 明らかに、ステラが売れなかったのが、原因と思われる。もっとも、ステラが元々売れるかどうかと言われれば、何とも言えないが、今の日本においては、うまくCMが打てるかどうかが、その商品の栄枯衰退を左右しがちなので、影響が無かったとは言い切れない。何にしても、結果的には、ドル箱(もう死語かな?)の赤帽仕様まで、同じトヨタグループのダイハツに移る事になってしまった様だ。
 その後は、サブプライムローン債券が吹っ飛んで、世界不況に見舞われ、どこの企業も、事業も、再起どころではなくなったのは、ご存知の通りである。当然、スバルだって、元々ヘロヘロなんだから、陣は壊滅し、背水に突き落とされてしまった。辛うじて、インプレッサとレガシーという舟に助けられていると言えるだろう。まぁ、インプレッサの方は、今やサーキットのストレートで、フェラーリをピューッと抜く車だから、未来が無い訳じゃぁない。しかし、軽自動車という薄利多売ではあるが、柱になるはずだった事業を吹っ飛ばされた事には違い無い。この怒り、どこにぶつければいいのだ?

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 慎ましくも華やかな式で、女の幸せと言われる結婚をつかみ、華麗に復活を遂げた沢尻氏に、責任を取ってもらえばいいのか? だが、あの規模の事業の責任を取るなんて無理だし、第一、彼女がそんなに悪いのか? 無罪とはいかないまでも、ちょっとふて腐れていただけじゃん。悪の張本人は、バッシングし過ぎた連中である。前頭葉の抑えが利かず、言いたい放題状態に陥った連中の言う事が、世論となってしまい、彼女の好感度を下げ、CMを打ち切りに導き、そして結果的に、スバルの軽自動車事業を殺したのだ。
 しかし、不思議な事に、スバルからの恨み節は聞こえて来ないし、沢尻氏も「エリカ様ぁー」なんてファンが叫び、手を振られる存在に戻った。もちろん、誰もあの騒動を、スバルの軽自動車撤退に結び付けるなんて、馬鹿らしい説は唱えない。『風が吹けば、桶屋が…』という程度の話しだ、無理も無い。だが、少なくともステラ関係者は、深い傷を負ったはずだ。

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(C)2009 Richard Feynkid