R.Feynkidの
ぶやき

あなたの前世は誰?

 輪廻という概念がある。人は死ぬが、いずれまた、この世に生を受けるという考えだ。あくまでも概念であって、実際のところは、誰も確実な事は言えないだろう。だが、一応“ある”と信ずる人々がいる。そして、その信心に伴って、自分の前世が気になる人がいて、それを教えてくれる人がいる。前世占いというやつだ。
 さて、この前世占い、女性ならば『中世のお姫さまで、素敵な王子のお妃だった』なんて言われれば、「きっと素晴らしい出合いが待ってるわん。ふんっ」と、鼻息のひとつも荒くなることだろう。生活に潤いを与える程度ならば、かわいいもんである。
 だが、まずひとつ目の問題として、そんなに高貴な人を前世に持つ人が濫立できない事だ。多くの人は“その他大勢”を前世とするしかない。いや、現在の世界人口を考えれば“その他大勢”すら、すべての人に割り当てられない。すると当然の様に、人間以外の動物ということになる。徳を積んだ熊とかなのか?
 で、次に問題となるのは、その前世の個人が特定できない、詳細がわからないと、全く無意味なことである。先の“お姫さま”の例ならば、「そこまでわかっているならば、名前のひとつも出てくるもんだろう。で、その人は“ナンターラ、ウンニャーニ王妃”とか言うの?」と聞き出せばいい。たとえそれがどんなにドッチラケでもだ。
 困るのは、“徳を積んだ熊”や“その他大勢”の人である。例えば、「農民でした」と言われたとする。ステレオタイプなイメージとすれば、協調性があり、狩猟民族と比べても穏やかということなりそうだ。だが、果してそうだろうか? 個人に焦点をあてた場合、その性格や辿った人生は千差万別である。荒々しい者もいれば、イメージ通りの真面目で穏やかな者もいただろう。そして、農業一筋で生涯を閉じた者もいれば、犯罪者となり村を追われた者、出世して大地主となった者もいるかもしれない。
 前世があなたに影響するならば、その前世は、漠然と「農民でした」とかいうものの類いでは、力不足なのだ。たとえその当時に、その他大勢の農民の内の一人であっても、あなたを決定付けるのなら、なんの誰兵衛で、米を作っていたのか、野菜を作っていたのか、どんな人生を送ったか、家族構成がどうとか、学はあったのか等、詳細がわからなければならない。そうでないと、参考にならないではないか。だって、あなたの人生だって「あぁ、OLさんですね」で片付けられるものではないはずだ。紆余曲折が、蓄積が、その他諸々が、今のあなたになっているからだ。
 熊だった場合、一体どうすればいいのだ? 「森にいただろうなぁ」「木の実を食べてたかな」「やっぱりハチミツ好きだったのか?(くまプー参照)」参考にならん! よく前世の行い(運命?)を繰り返すという話しがあるが、熊の行動を繰り返すのか? 前世と同じ様に、恋敵に刺されるとか、(そんなのは嫌だが)ドラマチックな展開は、熊の場合は期待できそうもない。食料を求めてうろつくイメージなんか持たれるかもしれないが、人間を含めて動物全般、基本的には“食う”がメインの行動である。たとえ前世が、熊であろうが、ライオンであろうが、「食意地が汚い」だの「だから太っている」だの言われる筋合いはない。熊ならまだしも、某有名人の様に、かまいたちやカッパ等、架空の生物の場合は途方に暮れる。
 という訳で、題名が『前世は何?』ではなく『誰?』となった理由がご理解いただけたと思われるが、くれぐれも前世占いをしてくれる占い師に、根掘り葉掘り聞いて嫌がられた挙げ句に、「R.Feynkidが聞けって言ってた」なんてことのないように…。私の前世? んー、何がいいかな?(って、オイッ、自分で決めるんかよ!)


追記:

 松尾貴史著『オカルトでっかち』(朝日新聞出版)の、第3章「今日からできるオカルト除け…こけおどしの落とし穴」の最後の方では、「やっぱり同じ事、不思議に思ってる人がいるんだよなぁ」と、心の中でつぶやいてしまった。思いっきり同じ事が同じ様に書いてある(爆笑)。と言うか、本当は皆「おかしいよなぁ」と思っているけど、口に出さないだけなんだよねぇ。大人だなぁ…。
 ちなみにこの本、ある程度“オカルトめった打ち”ではあるが、エピソードてんこ盛りの松尾氏エッセイなので、笑いながら「ふむふむ」と読めるものだ。最後の解説(P.310)によれば、『世に跋扈するオカルト信者や予備軍の、あまりにも無防備な矛盾をつっこみ、笑う人のための本である。』んだそうで、そう、私も読者の資格が十分過ぎる程あった、っつぅー訳だ。そんな事は露知らず、購入してしまったんだから、これには何か得体の知れない強大で未知なる力が介入しているかもしれない。偶然にしては出来過ぎているではないか。フリーメイソンか?、はたまたUFOの仕業か? 否っ、前世も又、お笑い好きだったからに違い無い!

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(C)2008 Richard Feynkid